宿で読む『月夜と眼鏡』|二人の訪問者と、見えた後にも続くおばあさんの優しさ

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旅先の宿へ戻って、次の日の支度も済んだ。もう一か所へ出かける元気はないけれど、寝る前に小さな物語なら開いてみたい。

そんなときの読書の候補に、小川未明の『月夜と眼鏡』があります。静かな夜に針仕事をしているおばあさんのところへ、二人の訪問者がやってくる童話です。

夜中の訪問者、と聞くと身構えるかもしれない。でも、この話で気にして読みたいのは、驚くことが起きた後の、おばあさんの返事なんです。

よく見えるようになる眼鏡。そこに映る、思いがけない姿。

その後、この人はどうするんだろう。そこまで一緒に読んでみよう。

以下は結末まで触れます。先に物語そのものを読みたい人は、青空文庫の公開本文を開いてから戻ってきてね。この記事の読み解きは、この『月夜と眼鏡』という表題の本文に基づきます。紙の本として後で紹介する乙女の本棚版は『月夜とめがね』という表記で、底本や細かな字句まで同一として引用するものではありません。

目次

時計の音と遠い汽車。誰かが来る前の夜を少し見てみよう

物語が始まるのは、町も野も緑の葉に包まれるころ。おばあさんは町のはずれで、一人、窓の下に座って針仕事をしています。

家の中にはランプの灯り。外には月の光。

この二つがあるだけで、部屋と外の様子を分けて思い浮かべられるよね。外の光は青く、木立や家や丘が水に浸ったように描かれています。単に夜だから暗い、と一色にしないで読むと、訪問者が現れる場所も違って見えてきます。

おばあさんが針仕事をしながら考えているのは、自分の若いころや、遠くの親戚、離れて暮らす孫娘のこと。手を動かしている時間の中へ、ここにはいない人たちの姿が入ってくるんです。

ここで早くも、不思議な世界へ入ったと決めなくていいよ。身の回りの作業をしながら、別の場所の人を思う。まずは、そんな一人の時間としても読めます。その静かな時間へ、あとから実際の訪問の音が重なってくる。

音にも少し目を向けてみよう。近くでは目覚まし時計が刻み、遠くからは町の物売りの声や汽車のような音がかすかに届いています。誰もいない世界ではなく、にぎやかな場所から少し離れた場所なんだね。

だから、戸をたたく音がしたときのおばあさんの判断にもつながりがある。こんな時間に誰かが来るはずはない。きっと風だろう、と最初は受け止めています。

何か音がしたらすぐ戸を開ける、という進み方ではありません。風かもしれない、自分の耳のせいかもしれない。そう思っていたところへ、窓の下の足音と呼び声が重なる。外にいる相手が、少しずつ具体的になっていくんです。

宿で読むなら、この最初の部分だけを一度ゆっくり読んでみてもいい。読み終える速さより、「どこから聞こえる音かな」と位置を思い浮かべる読み方です。実際の宿で同じ音を聞いたことにする必要はないよ。物語の中の部屋を、一つ作っていくつもりで。

一冊で手元に置きたい場合の候補は、小川未明とイラストレーター・げみによる乙女の本棚版『月夜とめがね』です。出版社は小説と画集の両方として楽しめる一冊と紹介しています。ここまでの情景は公開原文から読んだもので、紙版のすべての絵を見ての感想ではありません。

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最初の訪問者は眼鏡売り。大きな不思議より、まず針に糸が通るんだ

窓の下にいたのは、背があまり高くなく、黒い眼鏡をかけ、ひげのある男です。男は眼鏡売りだと名乗ります。

おばあさんは相手を知らないので、最初は訪ねる家を間違えたのかと考える。知らない相手が、初めから家族のように迎えられるわけではないんだね。そこにも、一つずつ相手を知っていく順番があります。

男は、この町へ来るのは初めてで、月がいいから売り歩いていると話す。夜の商いという少し不思議な状況だけれど、おばあさんには、目がかすんで針に糸を通しにくいという、ちょうど困っていたことがあるんです。

それで、自分に合う眼鏡があるかと尋ねる。

ああ、魔法の道具を探しに出たわけじゃない。目の前の針仕事を続けたいところへ、眼鏡の話が来るんだ。

男が渡すのは、べっこう縁の大きな眼鏡。おばあさんが試すと、時計の数字や暦の字がはっきり読めます。読んでいるこちらも、最初に置かれていた時計が、ここでまた出てきたことに気付けるよ。

時計は音で夜の静けさを伝える物でもあり、いまは見え方を確かめる対象にもなっている。新しい道具の説明が、部屋の中の、すでに知っている物へつながるんです。

おばあさんは喜び、代金を払って眼鏡を買います。ここは贈り物としてもらった場面ではありません。男は売り、おばあさんは買う。物語のやり取りを、何となく「優しい人が無料で授けた」に変えずに残しておきたい。

男が去った後、針の穴に糸が楽に通るようになります。そのうえで、おばあさんは眼鏡を掛けたり外したりしてみる。見えるのが珍しいことと、普段とは様子が変わること。その両方が書かれているんだね。

道具を得たらすぐ次の事件、ではなく、この小さな時間がある。眼鏡の働きが、まず暮らしの中で確かめられます。だから後の場面で同じ眼鏡を手に取るときも、唐突に別の道具が現れた感じがしない。

最後におばあさんは、眼鏡を時計のそばへ置きます。あ、置き場所まである。ここを覚えておくと、二人目の訪問者が来た後、探す動きがよく分かるよ。

乙女の本棚版を選ぶ場合も、この眼鏡が出てくるところを、どんな文章と絵で見せているかが読書の関心になります。出版社の作品紹介では、げみが見え方の違いを表現する制作の話も公開しています。説明を読んだことと、掲載された全図版を確かめたことは分けながら、自分で本を開く楽しみにしておこう。

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二人目は、こちらを知っている少女。助けを求める理由にも耳を向けたい

もう寝ようと片付けにかかったところで、また戸をたたく音がします。今度は窓ではなく、入口の方へ、おばあさんが向かう。

そこには、十二、三歳ほどの少女がいます。少女は指を傷つけ、助けを求めに来たと話します。

話の中で少女が伝えるのは、町の香水製造場で白ばらの香水を瓶へ詰める仕事をしていること。夜遅く帰る途中、月がいいので歩いていて石につまずき、けがをしたという事情です。

この説明を受けて、おばあさんは少女から香水の匂いを感じています。言葉だけではなく、部屋へ入ってきた相手の匂いも描かれる。前の場面で、男の足元に草花が香っていたことと並べて読むと、夜の中に花の気配が続いているようにも読めるよ。

ただし、二人の来訪者がどういう関係かまで、そこから決めなくて大丈夫。似た要素を見付けることと、同じ正体だと確定することは別だからです。

少女の言葉で、もう一つ気になるのが、おばあさんを知っているという点。おばあさんの側は、少女を知らない。でも少女は、これまで何度も家の前を通り、窓の下で針仕事をする姿を見ていたと答えます。

知っている側と、知らない側が、逆なんだね。

最初の眼鏡売りには、おばあさんが知らない相手だと言った。二人目の少女からは、自分のほうは前から知っていると言われる。同じ夜の来客でも、やり取りは少しずつ違っています。

少女は、おばあさんを親切で優しい人だと思い、まだ灯りがついていたので戸をたたいたという。これも、少女が語る来訪の理由として読む部分です。おばあさんが町の全員からいつもそう評価されていた、と別の場面を作り足す必要はありません。

それを聞いたおばあさんは、まず傷を見せるように言い、ランプの近くへ連れていきます。ここでは、何者かを調べるために招き入れるより先に、目の前のけがへ対応しようとしているんです。

でも、よく見えない。赤い血は見えるのに、どこから出ているのかが分からない。

そこで、さっき買った眼鏡を探す。時計のそばにあった、あの眼鏡です。一人目が持ってきた物が、二人目を助けようとする動きへつながる。別々の短い出来事が、ここで一つの夜になっていくよ。

この部分を読むなら、少女の説明の長さにも気付いてみてね。助けてほしいという一言だけでなく、仕事、帰り道、けが、訪ねる理由が順に語られています。後で見えた姿を知ったうえで、もう一度この説明へ戻ると、最初とは違う疑問も出てくるかもしれません。

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正体が見えた後も「いい子」。その先の花園まで読んでみよう

眼鏡を掛けたおばあさんが少女を見ると、そこにいたのは一つのこちょうでした。ここで取り上げる青空文庫の本文は、そのように語っています。

びっくりする場面だね。でも、正体が分かったことを、そのまま物語の終わりにしないで、次の返事まで読んでみたい。

おばあさんは、穏やかな月夜にはこちょうが人間に化け、遅くまで起きている家へ来ることがある、という話を思い出します。そして、足を傷めていたのだと理解する。

目の前の相手の見え方は変わった。でも、けがをして困っているという部分は、そのまま残るんです。

そこでおばあさんは、相手を「いい子」と呼び、こちらへ来るように優しく声を掛ける。追い払わないし、何だったのかを問い詰める場面にもならない。ここ、驚きの後の態度を見たい理由です。

最初に助けようとしたときと、姿が分かった後で、相手への声の温度はどう変わるんだろう。そう思って読むと、この短い呼び掛けが目に留まります。見えるものが増えたことによって、相手を雑に扱う理由が増えるわけではないんだね。

その後、おばあさんが先に立ち、裏の花園へ向かいます。少女は黙ってついていく。眼鏡でこちょうだと分かった後も、文章には少女という呼び方が現れるので、どちらかの言葉だけへ全部を置き換えず、そのまま辿ってみよう。

花園は、昼はちょうやみつばちでにぎわう場所。いまは静かで、月の光が流れ、白い野ばらが咲いている。冒頭にあった月の光と、草花の気配が、今度は庭の場面になるんです。

おばあさんが振り向くと、少女は音もなく姿を消しています。薬をつけ終えた、傷が完全に治った、といった結果は、この本文には書かれていません。助けようと花園へ出たことと、その後の姿が見えなくなったことを、別々に残しておこう。

そして、おばあさんはみんなへ休むように言い、自分も家へ戻って寝ようとします。最後に残るのは、いい月夜だったという言葉です。

大きな事件の説明をし尽くさないまま、夜の時間へ戻っていく。だから読後に一つだけ問いを残すなら、「正体は何だった?」の先へ進められる。「分かった後、おばあさんはどう話した?」でもいいんです。

自分の読書メモには、眼鏡を掛ける前の対応と、掛けた後の呼び掛けを、二段にして置いてみて。何が変わり、何が続いたかを、自分で本文へ戻って見られるから。作者が絶対この一つの教訓だけを伝えた、と決めずに、その返事を読んでみよう。

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旅に持つ本は、紙の大きさと読みたい形を確かめて選ぼう

この童話を旅の一冊にするなら、スマホで公開本文を読むのか、絵のある紙の本を持っていくのかを、先に選べます。

青空文庫は『月夜と眼鏡』として公開しており、今回読んだ本文の底本は講談社『定本小川未明童話全集3』です。一方、乙女の本棚版『月夜とめがね』は、小川未明の文章とげみのイラストを組み合わせた別の書籍。公開本文の行や段落が、そのまま紙版の何ページかまで対応すると考えずに選んでね。

今回確認した紙版のISBNは9784845634101。出版社の作品紹介と国立国会図書館の書誌、楽天の書籍商品で、書名・著者・イラスト担当を確かめています。

買うときは、同じ絵の表紙が見えても、単冊なのかセットなのか、紙なのか電子版なのかを見ておこう。ほかの作品と組み合わせたセットも検索結果にあるので、ほしい一冊の内容と個数を確認したい。中古なら状態や欠品、価格や配送先の条件も購入候補ごとに見てね。

持ち歩きやすさは、本のページ数だけでは決まりません。自分のバッグの内寸と、本の判型・実寸を購入先で確かめ、折らずに収まるか考える。イラストを見るために少し大きい紙の本を選ぶなら、それを置いて読める時間を旅程に残す、という判断もできます。

反対に荷物を増やしたくない日は、公開本文を読める場所を保存しておく方法もある。現地の通信状態によってはすぐ開けないこともあるので、出発前に一度アクセスして、何を読むつもりか確かめておくといいよ。どちらの読み方でも、睡眠時間を削って一冊を読み切る必要はありません。

この話なら、最初の時計の音、眼鏡を置く場所、驚いた後の短い返事。気になった一つへ戻る読み方もできる。新しい景色をたくさん増やした旅の終わりに、一つの小さな動きを追う読書です。

静かな夜に、二人がやってきた。見えた姿に驚いても、おばあさんは声を掛ける。

寝る前にページを閉じるなら、今日はその返事を一つ、手元へ残してみよう。続きの謎を全部片付けなくても大丈夫。月の光と花園へ、また戻ってこられる一冊だよ。

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この記事を書いた人

旅の行き先や宿、過ごし方を考えるための情報をまとめる編集室です。旅行の目的や同行者に合わせて、計画前に確認したい点を紹介します。

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